ビデオ⑭ 自己紹介その1

制約の中の自由

「守破離」とは、修行の段階を表す教えで、600年前に能の世阿弥が伝えた言葉だそうです。
とても簡単に言いますと、
まずは、教えられた「形」を教えられたとおりに守り、
続いて、学んだ基本を自分にあった工夫で破り、
そして、基本を踏まえた上で形にとらわれず離れて自由になる、
という過程です。

 

私は以前、お茶を習ったことがあります。
「どうしてこうするんだろう……」と思うことばかりでした。
しかし、ここではじっと我慢をするべきなのです。
つまり、「守」の段階です。
まず、教えられた通りの形を作って、後からようやくそこに思いが入る。
私はほんの1年ぐらいしか学ばなかったので、とても「破」までいけませんでしたが、もっと「守」に専念していたら、今の自分にないものを発見できていたかも知れません。

この「守破離」という過程は、声の出し方について学び実践する場合でも同じだと思います。

「普段こんな声を出すのは大変だな。こんな声で本当にいいのかな?」と思いつつも、習った声を使い続けていきます。
だんだんその声が自分の身についてきて、楽しい!と感じる段階に入ります。
もっとこんなふうに話してみたいというチャレンジが生まれてきます。
すると、心の言葉を自由に素直に表現できるようになります。
その時、どんなあなたになっているでしょうか? 
きっと、心地よい笑顔のあなたが想像できるのではないでしょうか。

 

さて、いろいろ学んできましたが、重要なのは、習ったいい声のコツを日常で実践するということです。
スピリットボイスで学んだいい声のコツは、いつもの声の出し方とは違います。

以前開催したボイストレーニングの研修会に参加してくださった方が、こんなことをおっしゃっていました。

「こんな声では気持ちが伝えられないです。気持ちがこもりません。違う人が話しているみたいです。私じゃないです」と、ちょっと抗議のような感想でした。

この感想が出てくる理由もわかります。
今までの声とは確かに違うのです。
でも、その声が本当のあなただとしたら、あなたはどう思いますか? 
本当のあなたを引き出すのがこのボイストレーニングの狙いなのです。

 

今まであなたが「自分だと思っている自分」は、長年の付き合いもあって馴染みがあるのですが、録音した声を聞いた時、イヤだな、と感じます。
なぜでしょうか? 
このイヤだな、と感じる部分は、実は自分じゃなくて、後から付いてしまったクセなのです。
このクセがなくなると、声にイヤなところがなくなります。

しかし、馴染みがあるから、このクセごと自分だと認識してしまっているのです。
なので、このクセがなくなることに、違和感を覚えます。
「このクセがあるのが私なんです」と、言いたくなってしまいます。
でも、クセはないほうが相手は聞きやすいのです。
本来のあなたは、クセのないあなたなのです。

 

「今までの私から変わるぞ」という決意がないと、ボイストレーニングは進歩しません。
「この声、今までと違うから、ちょっと違和感があるなあ」と思っても、まずは続けて使ってみましょう。
「守」の段階です。
素直に続けないことには、変化は訪れません。

 

それでは、いよいよ、今までの自分とは違う、クセに流されない話し方を練習しましょう。
「サーン!」の声、あるいは「エビ!」の声は、クセがとれた本来のあなたの声です。
エネルギーが高く、心がよく動き、相手への配慮ができる声です。
思考は独りよがりではなく、広い範囲を見渡して状況を冷静に判断できます。
そして、操り人形である自分は、「司令部」からの司令を素直に表現することができます。
もし、「人が私をどう見ている?」と気になったら、即座に「意識」を「1、2、サーン」で、後ろに置きましょう。

 

「守」で、今までの自分に戻ってしまわないように取り組みながら、簡単な自己紹介を練習します。

「私の住んでいる      は、      な町です。

 そして、               なところです。
 私は、(感想)                   

 

紙を用意し、空いているのところに言葉を入れて、文章を書いてみましょう。
接続詞や助詞などは、変えていただいていいです。

このような文章を作る時、むずかしいなあと思ったら、こう考えてみてください。
みんなが感心する内容にしようとか、きちんと書こうなんて思わずに、「今日の私はこう思った」あるいは、「今の私はこういう気分」という視点で書いてみてください。
明日、内容が変わってもいいのです。
万人受けは必要ありません。
言葉はどんどん流れていくものなので、一般的なもので終わるより、あなたらしさが顔を出すもののほうが、その場が楽しくなるのです。

 

そして、読む時、これまで学んだことを取り入れてみましょう。
まず、音の高低です。
文節ごとに高から低へ。
助詞(てにをは)で音を上げないように注意しましょう。
急がないで、ゆっくり読みましょう。
そしてもちろん、「意識」は後ろのいい声です。

 

これから、同じ文章を3回読んでいただくのですが、できましたら、録音してみてください。
3回の違いを聞いていただきたいです。

では、読んでみましょう。

〈1回目〉

いかがでしたでしょうか?

自分が作った文章は、文章自体が自分自身なので、ついつい、いつもの自分の声、話し方に戻ってしまいがちです。
ここまでの練習ではうまくできていたのに、この自己紹介その1の発表で、急に元のクセが出てしまう方が多いです。
喉がつまる、息が苦しくなる、がんばらないと大きな声が出ない、はっきり喋れない、ドキドキする、不安定な気分になる、などです。
これらは、本来のあなたではなく、人前で話すときのあなたのクセです。

 

それでは、クセが取れた動じない自分になりましょう。
「サーン!」あるいは「エビ!」で、自分の体から「意識」を引きはがし、「俯瞰」で自分と周りを見ることができる、もう一人の自分「司令部」を設定します。
設定できたら、そこで力を抜いてみます。

今までいた雑多な感情の場所から、ひらりと離れた場所に「意識」を移動させるのです。
そして紙を手に取り、他人の文章のような気分で、「司令部」の目で字を追いながら、声に出して読んでみてください。
他人の文章を読むような感じで、感情を入れずに、ただ読みます。

自分の原稿だと思うと、感情が入って勝手に息が乱れます。
なので、ひとごとで読む。
自分の感情を乗せないで読んでみます。
すると、息の乱れがなくなり、安定した口調になります。
焦らず、「意識」を後ろに置いて、「人の原稿です」と思って読むのです。
あまり意味を考えず、無感情に、人の原稿を丁寧に読んであげています、という感じです。
最後までテンポを崩さず読むと、人に安心感を与えます。
文章の終わりのあたりは、気が緩みやすいので、最後の最後の「。」まで、気を緩めずに読みましょう。
棒読みだなあ、、、と感じるかもしれませんが、これが、守破離の「守」なのです。

〈2回目〉

何も考えなくても、自信のある話し方になっています。
そして、このクセのない話し方こそ、あなたらしいの話し方の基礎なのです。
自分流に話すのは、この基礎がしっかりできるようになってからです。
「どうしよう」「大丈夫かな」というネガティブな気持ちが浮かんでこなければ、あなたはあなたをさらに表現していけます。
そのうえで、音の高低をいつもより派手につけると、さらに表現力がアップします。

 

3回目、今度は後ろの「俯瞰」の場所から左右にエネルギーを伸ばして、「サラウンド」の声で読んでみましょう。
「サラウンド」はイメージするだけでできます。
自分のエネルギーを横に広げることに集中して取り組んでみましょう。
こうなると、もう文章の意味は考えられなくなります。
ただ読むだけです。
やってみましょう。

〈3回目〉

「サラウンド」で話すと声の響きが変わるのがわかりましたでしょうか?
「サラウンド」で話すと、言葉が左右から相手を包むように届き、体の中にふわっと入っていく感じです。
胸に入ってきたり、お腹に入ってきたり、質感のあるエネルギーに包まれているような感じもします。

 

では、録音した3つを聞いてみましょう。
いかがですか?

あなたが思う以上に、響きのある安定感のある声ではないでしょうか。

 

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