受け取りやすい声

声を左右に伸ばしサークルをつくることで、聞き手の正面ではなく横から、肌当たりのいい声が届きます。
とても受け取りやすい声になります。
目の前の人に声を直球で投げつけるように話すと、聞き手の体に声が強く当たり圧迫感を感じます。

 

それでは、夕ご飯前にガミガミ怒っている「ガミガミ母さん」をイメージしてみましょう。
「早く片付けなさいっ!ご飯でしょっ!」

強い語調の言葉を体に浴びせられると、子どもは反抗心がむくむく湧いてきます。
片付けなくてはいけないとわかっているのだけれど、抵抗したくなり、無視して遊び続けてしまいます。
イライラが募ったお母さんの声が、さらにボルテージを上げて飛んできます。

「何度言ったらわかるのっ!片付けなさいっ!」

お母さんは、思うとおりに子どもが動かないことで、メラメラと怒っています。
声の暴力で、無理やり子どもを動かそうとします。
この声を聞いて、子どもは機嫌が最高に悪くなり、理性をなくしてガチャガチャと乱暴に片付け始めます。
その後の食卓は、美味しいご飯だったのにもかかわらず、全く美味しくないものに変わってしまっています。

 

さて、この場面、「サラウンド母さん」だったらどうでしょうか?

左右に声を伸ばしてサークルを作り、子どもを直撃しない肌当たりのいいサラウンド声でこう言います。
「もう片付けないと、ご飯できちゃうよぉ~」

サラウンド母さんは、伝えたいことは言ったので、後は、子どもを信じて待つことができます。
その後、子どもがそのまま遊び続けていても、イライラすることはありません。
子どもの気持ちを尊重し、自発的な行動を信じているのです。

お母さんに声をかけられても、やっぱり子どもはまだ遊びたいと思っています。
でも、片付けたほうがいいことはよくわかっています。
しばらく納得いくまで遊んで、片付け始めます。

 

「ガミガミ母さん」の圧力のある声で動かされて片付くまでの時間と、「サラウンド母さん」の肌当たりのいい声で片付け終わる時間を比べると、「サラウンド母さん」の方が長くかかるかもしれません。
しかし、「サラウンド母さん」は、その時間を気にせず待つことができます。
部屋も心地よく片付くし、なんといっても、ご飯が美味しい!
「お母さんは、あなたのことを信じているからね」というメッセージが、子どもにちゃんと伝わっているのです。

 

あなたの「意識」が後ろに移動し、自分から一歩離れたことによって、「自己中心(他人のことを考慮しない行動をする性質)」から、「相互尊重(お互いの人格を敬う行動をする性質)」へ、考え方も変化します。
「自己中心」だと、自分が伝えたことに対して相手がどう取り組むか、最後まで気になって仕方がなくなります。
そして、思う通りにいかないと、力づくでも相手を動かそうとします。
これはエゴです。

「意識」を後ろに置くと、自分のやるべきことはやり、やった後はすっかり相手にお任せできる立ち位置でいることができます。
つまり、人の行動に対して、とやかく思わなくなるのです。
一歩引いたところから自分も相手も尊重して見守ることができる、そんな立ち位置なのです。

 

相手を尊重する言葉の伝え方

「サラウンド母さん」の話を、2歳のお子さんを持つお母さんに伝えました。
「いいですね~」とおっしゃって、その方は実際にお子さんにやってみたんだそうです。

「娘がよくガスコンロのスイッチを押そうとするんです。今までだったら『危ない!触ったらダメっ!』と大きな声で叱っていたのですが、『サラウンド、サラウンド』と心の中で唱えて、『○○ちゃん、触りたいけどお手々ケガするから、これは触ってはダメなのよ』と冷静にサラウンドで伝えたんです。すると、「うん」と言って、すぐに触るのをやめ、その後『これは、お手々ケガするから触らない』と、私に話してくれました。そしてその後、ガスコンロのスイッチを触ることがなくなったんです。こんな小さい子が、声に反応するとは驚きました。サラウンド効果、すごいです」

そして、こんなこともおっしゃっていました。

「感情的に話すのと違ってスピリットボイスだと、言葉ではなくてテレパシーのような感じで、2歳児にでも理解してもらえるんですね。そして、相手を尊重することによって、相手も私を尊重してくれる。HAPPY×HAPPYですね。子育て中のお母さん、特に話がまだ上手にできないお子さんがいらっしゃるお母さんには、とってもお勧めだと思います。子育ての魔法のツールだと思いました。いつでも使えるように、もっと練習します」

 

相手を信じ、冷静に見守ることができる

「サラウンド母さん」の話を、小学校4年生を担任している女性の先生にお伝えしましたら、後日こんな話をしてくださいました。

「先生、先日後ろを意識して話し、俯瞰の意識でいたら、すばらしい効果があったんですよ」
「えっ、どんなことがあったんですか?」

 

以下、先生のお話。

放課後佐藤さん(男の子・仮称)が、泣きながら職員室にやって来たんです。
ちょっとぽっちゃりしている佐藤さん、山本さん(男の子・仮称)に、二重あごって言われた~と言って、泣くんです。
そこで、山本さんを職員室に呼んで、二人の意見を聞きました。
いつもの私でしたら、「山本さん、佐藤さんに、二重あごって言ったの?」と言い、「あやまりなさい」と言ってあやまらせ、「佐藤さん、ほら、あやまったから、許してあげてね」と言って、仲直りさせていたと思います。
しかし、後ろに意識を置くことを習いましたので、よし、やってみようと思って、意識を後ろにしてサラウンドのサークルを作って、二人の話を聞くことにしました。

「山本さん、佐藤さんに二重あごって言ったの?」
「うん、言ったぁ」
「そう。佐藤さん、イヤだったみたいよ」
「うん」
「どうする?」と、山本さんに投げかけてみたんです。
すると、「佐藤さん、ごめんなさい」と、自分からあやまってくれました。

「佐藤さん、山本さん、あやまってるけど、どうする?」と佐藤さんに聞いてみると、「わかったぁ」と答えます。

ここで終わっても良かったんですが、何故かもう一度山本さんに「佐藤さんがわかったって言ってくれたけど、どうする?」と聞いてみたのです。
すると、山本さん、しばらくしてから「ゆるしてください~」と言ったんです。

わたし、こんな言葉が彼から出てくるとは思わなかったので、びっくりしてしまいました。

「佐藤さん、山本さんが、ゆるしてくださいって言ってるけど、どうする?」
「ボク、ゆるすぅ~」となりまして、二人は握手して帰って行きました。

たしかに、時間はかかったのですが、自発的に山本さんがあやまってくれ、私が何もしなくても和解できた様子を見て、子どもを信じて待っていれば大丈夫なんだなとわかりました。
この二人の会話を見守っている間、後ろに意識を置いていることが、私にとってとても重要なことでしたと、おっしゃってくださいました。

 

後ろに意識があると、自分のエゴで動くことはなく、冷静に待つことができます。
人の気持ちの動きをじっと見守ることができるのです。

 

この「サラウンド先生」の話をお伝えしたある神社の奥様が「素晴らしいですね」と、こんなことをおっしゃいました。

「サラウンドの場の中にいると、心の中の本当の言葉を言いたくなるんですね」

まさに、そのとおりなのでしょう。
サラウンドの場は、心が緩む安心の場なのです。

 

サラウンドは、いろんな場面で効果があります。

たとえば、一方的にガンガン感情で話す上司と、部下のことを尊重しながら話してくれる上司がいたとします。
ガンガン上司には、部下がみんな気を使って接していて、あまりいい雰囲気にはなりません。
サラウンド上司に対しては、部下は「この人できるな、よく状況を見てくれているな」と尊敬の気持ちが湧いてきます。
「この上司のもっと役に立ちたい、いい仕事をしよう」と、自発的にやる気になってきます。

ある食品会社の社長さんがボイストレーニングをした後、こうおっしゃいました。

「自分と相手の方との間に大きな器を置いて、その中にいくらでも相手の言葉を入れられるような、そんな大きな気持ちで相手の話が聞けるようになりました。」

聴く姿勢も、変わってくるようです。

 

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